ソーシャルシリアスゲーム: 2rot13

Social Serious Game: 2rot13 この作品はフィクションです。実在の人物、団体、事件などには関係ありません。

一枚の絵

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母の教団が所有する建物の一つに、その部屋はあった。父と私しか入れない部屋。私は子供のころから、炊事洗濯掃除をほとんどしてこなかったけれど、その部屋の掃除だけは自分でしていた。とはいえ、フローリング用のワイパーで一通り床をなでる程度だけれど。温度と湿度が完璧にコントロールされたその部屋には、一枚の絵がかけられているだけだったから。

母は新興宗教の教祖だったけれど、人間味があるというか、抜けているというか、それでいて自己愛は強く、集中力がなく、よくあんなものを運営できていたものだと思う。そこには、父の力もあったんだろう。父と母は婚姻関係になく、父とは普段、2週間に一度会うくらいの関係だった。エレクトラコンプレックスかもしれないけれど、私は父が大好きだった。

一枚の絵。ミスリードを招かないために先に言うと、それは1664年に描かれた絵だから、川久保大道が探している一枚の絵ではありえない。その絵が素晴らしいものであるということは、初めて見たときからわかった。私はあらゆる絵画を模写した。本当に、あらゆる絵画を模写した。模写は画家にとって最も重要なプロセスであり、偉大な画家の世界の再構築を追体験し、深く理解するために重要なことだ。しかし、私は、その絵を模写することだけは許されなかった。

その絵を入手したのはもちろん父だったけれど、もしその絵が劣化しても修復はしないし、もしその存在が他人に知られた場合、速やかに焼却して、完全に消滅させると言っていた。私は、自分が何かミスをすれば、その素晴らしいものが永久に失われるということが本当に怖かった。私はあまり何かを怖いとは思わないんだけれど、私は本当にそれを怖いと思い、絶対にミスはしないと誓った。その絵は、明らかに特別なもので、少なくとも私が初めて目にした瞬間から今までで、世界で最も重要な一枚の絵だ。フェルメール「合奏」。

フェルメール「合奏」。フェルメールの絵画は、████年、今ではただ「事件」と言われる、絵画に対する同時多発テロによって、全て失われた。現在、この世界に存在するフェルメールは、その部屋にあるその一枚だけだ。父が一体どうやって「合奏」を手に入れたのかは教えてくれなかったし、「事件」に関わっていたのかどうかも教えてはもらえなかった。他人にその存在を知られてはいけないから、当然大っぴらにその絵の話をするわけにはいかないからだ。なぜフェルメールなのかも、なぜ「合奏」なのかもわからなかった。

この作品はフィクションです。実在の人物、団体、事件などには関係ありません。